生活習慣病

高血圧

高血圧はよほど悪くなるまでは無症状であるため、放置されている事が少なくない病気です。一般的には最大血圧が140mmHg以上、あるいは最小血圧が90mmHg以上ある場合、高血圧と言います。高血圧には何らかの基礎疾患やお薬の影響などの原因があるものもありますが、ほとんどが隠れた病気がなく、原因となるものがないタイプです。高血圧を放置すると、血管に圧力の負荷がかかりますので、血管の内側が分厚く硬くなって(動脈硬化)しまう事で、更に血圧が高くなってしまう悪循環に陥ります。これが血管年齢の高齢化です。このため脳卒中になりやすくなったり、心臓に負荷がかかり、心不全、狭心症、心筋梗塞などの危険性が増えてきます。ですから、血圧が高いと言われたら、症状がなくても早めに受診しましょう。最大血圧を10mmHg、最小血圧を5mmHg下げる事ができれば脳卒中のリスクを約40%、狭心症や心筋梗塞などのリスクを約20%下げる事ができると言われています(高血圧治療ガイドライン2014より)。
では、どれぐらい血圧を下げればいいのでしょうか?
高血圧治療ガイドラインでは目標の血圧を年齢や合併症によって細かく示されています。
高血圧
生活習慣病
目安で示す診察室血圧と家庭血圧の目標値の差は、診察室血圧140/90mmHg、家庭血圧135/85mmHg が、高血圧の診断基準であることから、この二者の差をあてはめたものである
また、冬場になると血圧が上がる傾向なのはご存知でしょうか。寒くなると交感神経が働いて血管が収縮することが原因の一つです。他にも寒いため汗をかかなくなったり、運動不足なども原因として挙げられます。
夏場に比べると収縮期血圧(上の血圧)が10程度上がる患者さんは多くいらっしゃいます。20以上、上昇する人も少なくありません。
運動不足は努力できても寒さにはやはり影響されますので、血圧の薬は季節に応じた見直しをしています。冬場に血圧が上がるのは心筋梗塞や脳卒中のリスクが上がりますので、かかりつけ医としては血圧の管理を細かく行っていきたいと考えています。ですから、家庭での血圧に変調がある患者さんは1ヶ月の処方とかではなく少し短い間隔で来院していただき血圧のコントロールをするように心がけています。

高血圧の治療はどのように治療していくのでしょうか?

食生活の改善
栄養のバランスのとれた食事を摂る事、飲酒量を減らす事、塩分を控える(1日6g未満)事などが大切です。肥満気味の人は食事量の減量も考えて標準体重(BMI:25未満)に近づけるように目標を立てましょう。
禁煙
喫煙は動脈硬化の重要な原因の一つです。当院では禁煙されたい方のための禁煙外来も行っていますので、是非ご相談ください。
運動療法
ウォーキングや軽いジョギング、水泳などを無理なく続ける事が大切です。血圧の状態によって運動の量なども考えなければなりません(中等度以上の高血圧の方にはあまり激しいトレーニングはお勧めしません)ので、それぞれの患者さんの状態やライフスタイルにあった運動を計画をたててやっていくのが効果的です。
内服治療
上記のような生活習慣の改善を一定期間やっても血圧の改善がない場合は血圧を下げるお薬を飲むことが必要になります。血圧を下げるお薬にはいろんな種類がありますので、その人にあったお薬を飲んでいただきます。指示された用量、用法を守る事は大切なことで、適切な内服がなされないと、血圧が下がりすぎたり、薬による他の副作用などが出ますので、定期的に受診しながら最適な血圧を保ちましょう。

糖尿病

皆さんの食事に含まれている糖が小腸から吸収されて血液中に入ると血糖値は上昇しますが、このとき正常な人の場合、膵臓で作られるインスリンというホルモンによって血糖を下げる事ができます。糖尿病とはこのインスリンの量が足りなかったり、働きが悪くなったためにおこる病気です。日本人の大半は2型糖尿病といわれるものであり、遺伝、過食、運動不足、肥満、加齢などが関係していると言われています。近年、日本でも糖尿病患者は増加傾向で、約1,000万人(40歳以上の4人に1人)が糖尿病が強く疑われる、もしくは糖尿病の可能性が否定できない状態にあると言われているます。血糖が高くなると、血管の内側の組織が破壊されて栄養や酸素が体に適切に行きわたらなくなり、様々な合併症を起こします。

糖尿病(高血糖)を疑う症状としてはどのようなものがあるでしょうか?

喉の乾き、水分摂取の増加、多尿、体重の減少などがある場合は糖尿病の可能性があります。血糖が徐々に高くなっている場合は症状が無い事も多いのですが、放置され、過度な高血糖に至った場合は倦怠感、手足のしびれ、視力障害、麻痺や意識が悪くなったりする事もありますので、早めに相談する事をお勧めいたします。

合併症とはどのようなものでしょうか?

糖尿病性腎症
血糖のコントロールが悪い状態が長く続くと、腎臓の機能が低下していきます。腎臓が機能しなくなると最終的には人工透析が必要になります。
糖尿病性網膜症
血糖が高い状態が続くと血管の内部が破壊され酸素や栄養が行きわたらなくなりますが、目の毛細血管が敗れると視力の低下、失明などに至ってしまいます。年間に約3,000人の糖尿病患者が失明していると言われています。糖尿病性網膜症の予防のためには適切な血糖コントロール以外に血圧のコントロールも重要です。
糖尿病性神経障害
血糖のコントロールが悪いと神経細胞が傷害され全身の神経障害が起きます。神経には感覚や運動を司るものの他に自律神経といって内臓の機能に関係しているものがあるため、これらが障害を受ける事で様々な症状が出現します。 足にしびれや痛みを感じたり、まったく感覚がなくなったりします。
胃腸の動きが悪くなり、下痢や便秘の原因にもなります。
目の動きが障害されたり顔面神経麻痺なども起こすことがあります。
膀胱や生殖器などの神経が障害をうけると、排尿障害や勃起障害などがおきます。
血管の状態の調整や体のバランスがわるくなり起立性低血圧(立ちくらみ)や動悸、下半身の筋肉が萎縮したりします。
大きな血管が障害されると、心筋梗塞や脳梗塞の原因にもなります。

糖尿病は怖い病気でしょうか?

確かに様々な症状や合併症を考えると怖い病気かもしれません。しかし最も大切な事は糖尿病を正しく理解し、厳重に管理する事によってこのような合併症の発症や進行を予防する事です。糖尿病と診断されたら、一生上手に付き合っていかなければなりませんので、定期的な受診をしながら様々な観点から、かかりつけ医と患者さんが一緒になって対処する必要があります。

糖尿病の治療、管理とは?

糖尿病の管理項目としては飲酒の制限、体重管理、禁煙の指導、食事指導、運動指導など、包括的な管理が必要になります。適切な血糖の管理はもちろんのこと、血圧や脂質などの管理も重要です。
食事や運動療法を一定期間行っても血糖コントロールが不良な場合は内服による治療が必要になります。糖尿病の内服治療には現在様々な薬がありますが、それぞれの患者さんにあった(年齢や合併症など個々人で適切な薬剤を選択する必要があります)薬を処方し、同時に先程ご説明したような管理を行っていきます。管理項目全てをすべて完璧にこなすことは簡単なことではありませんし、長続きしませんよね。それぞれの患者さんにあった自己管理や教育支援を行いながら、実行可能な治療計画を一緒に考えてまいりましょう。

脂質異常症

脂質は人の体を保つための貯蔵エネルギーとなったり、細胞の一部を形成したり、ホルモンを作る際に必要であったりと、体の機能を保つために重要な働きをしています。脂質は食物から取り込まれたり、肝臓で作られたりします。脂質異常症は、体の中の脂質のバランスがくずれる事で、血液中のLDLコレステロール(悪玉コレステロール)や中性脂肪(トリグリセリド)が高くなったり、HDLコレステロール(善玉コレステロール)が低くなる事で、高血圧や糖尿病などと同様に、動脈硬化を引き起こす原因となります。放置されると、心筋梗塞や狭心症、脳梗塞などを起こしてしまいます。他の生活習慣病と同じように自覚症状がないために放置されてしまうことが少なくない病気です。
脂質異常症

脂質異常症には大きく3つのタイプがあります

1.高LDLコレステロール血症:悪玉コレステロールが多いタイプ
2.低HDLコレステロール血症:善玉コレステロールが少ないタイプ
3.高トリグリセリド血症:中性脂肪が多いタイプ
脂質異常症の診断基準を以下の表にお示しします。
脂質異常症診断基準(空腹時採血)*
脂質異常症
*10時間以上の絶食を「空腹時」とする。ただし水やお茶などカロリーのない水分の摂取は可とする。
**スクリーニングで境界域高LDL-C血症、境界域高non-HDL-C血症を示した場合は、高リスク病態がないか検討し、治療の必要性を考慮する。
LDL-CはFriedewald式(TC-HDL-C-TG/5)または直接法で求める。
TGが400mg/dL以上や食後採血の場合はnon-HDL-C(TC-HDL-C)かLDL-C直接法を使用する。ただしスクリーニング時に高TG血症を伴わない場合はLDL-Cとの差が+30mg/dLより小さくなる可能性を念頭においてリスクを評価する。
多くの脂質異常症は食生活、体質、運動不足、体重増加などの生活習慣に関連する事が原因で成人以降に発症しますが、これらの脂質異常症は他の病気が原因(糖尿病、甲状腺機能低下症、腎臓病、肝臓病、経口避妊薬やステロイドなどの薬剤)で起きる二次性脂質異常症と、他の原因となるものが明らかにない原発性脂質異常症があります。脂質異常症の原因となる病気や内服薬がある場合はそれぞれの病気に対処する事で改善させる事ができます。原因となる病気などがない場合、遺伝性の脂質異常症である家族性脂質異常症なども見落とされてはなりません。

治療

治療目標は患者さんごとに違います。すでに心筋梗塞や脳梗塞を起こしていて、その治療中の方や、高血圧、糖尿病などの基礎疾患をお持ちの方はより低いLDLコレステロール値を目指す必要があります。 脂質異常症は動脈硬化を進行させ、命に関わる合併症を引き起こす病気です。症状がなくても、脂質異常症の心配がありそうな方は早めに受診して適切な治療をはやめに始める事が重要です。動脈硬化のリスクファクターとしては、年齢(男性45歳以上、女性55歳以上)、糖尿病、高血圧、冠動脈疾患(狭心症や心筋梗塞)の家族歴、低いHDLコレステロール血症(HDLコレステロール<40mg/dl)などがあります。リスクが多い人はより厳格な治療目標が必要となります。
脂質異常症
食事療法
標準体重(kg)は身長(m)x身長(m)x22で計算する事ができます。肥満傾向がある方は標準体重を目指して、適切な食事量を摂取し減量に努めましょう。急な減量は長続きしないばかりか体にも悪影響を及ぼしますので、一緒に計画をたてて目標を少しずつ達成していきましょう。
1-1. 和食を主体とした食事に切り替えます。大豆製品や青魚にはコレステロールや中性脂肪を減らす働きがあります。味付けは薄めにして動物性脂肪の摂取を減らし、魚や植物性脂肪の摂取主体の食生活にしましょう。
1-2. コレステロールが多い食品(卵類、レバー、たらこなど)は控えて、食事は朝、昼、夜規則正しく適量を取って、就寝前の食事や間食をしないよう心がけましょう。
1-3. お酒の量を減らしましょう。アルコール量として1日に25g以下が良いとされています。
目安としては、ビールなら中瓶1本、日本酒は1合、ワインはグラスに軽く一杯程度となります。
1-4. お菓子や清涼飲料水などの過剰な糖分の摂取を控えましょう。
1-5. 食物繊維にはコレステロールの吸収を抑制する働きがあります。緑黄色野菜なども取り入れていきましょう。
運動療法
毎日の有酸素運動(30分以上)は中性脂肪や悪玉コレステロールを減らし、善玉コレステロールを増やす効果があります。
2-1. 運動の強度としては、少しきついなと感じる程度が良いでしょうが、高血圧、心臓病などをお持ちの患者さんは急な負荷を体にかけすぎないよう、自分で運動療法を始める前にかならずかかりつけ医と相談してから始めましょう。
2-2. 理想的な有酸素運動とはどんな物があるでしょうか?
ウォーキング、軽いジョギング、サイクリング、水泳、プール歩行などがありますが、なかなか毎日運動の時間が取れない事も多いですよね。そういう場合は生活の中で運動を取り入れる事も良いアイディアです。例えば、通勤途中、仕事場からに少し遠い駅やバス停で降りて歩く、エレベーターやエスカレーターを使わずに階段を使う、休み時間などの空いた時間に、両足を交互に上げてジョギングのような動作を30秒から1分やってみる、椅子を使って登り降りして運動を行うなど工夫次第でいろんな選択肢があります。
2-3. 毎日の運動が難しければ週に3回は有酸素運動を心がけて、数カ月間続けてみます。体重変化や血圧の変化、脂質の値をグラフやノート、カレンダーなどに記録したりすると、目標達成感が得られて、その後に続けるモチベーションにもなります。
薬物療法
禁煙、食生活の改善、減量、運動療法などが治療の基本ですが、これを数ヶ月続けても改善がない場合は内服治療が必要となります。内服治療薬には以下のような種類があります。
3-1.
HMG-CoA還元酵素阻害薬(スタチン):LDLコレステロールを下げ、中性脂肪も下げます。
フィブラート系:主に中性脂肪を下げますが、LDLコレステロールを下げたり、HDLコレステロールを増やしたりする作用があります。
エゼチミブ:腸の中でコレステロールを多く含む胆汁酸という物質の再吸収を抑制する事でコレステロールを下げます。
レジン:陰イオン交換樹脂で、腸の中でコレステロールを多く含む胆汁酸と結合して便として排泄する事でコレステロールを下げます。
ニコチン酸:肝臓で中性脂肪が作られるのを抑え、HDLコレステロールも上げる働きがあります。
プロブコール:LDLコレステロールを下げて、動脈硬化を予防する働きがあります。
エイコサペンタエン酸(EPA):青魚に多く含まれる不飽和脂肪酸から作られた薬で中性脂肪を下げ、血液をサラサラにする働きがあります。
3-2. 薬物療法を行う場合でも、生活習慣の改善は不可欠です。食事療法や運動療法を継続して行いましょう。
ただし、脂質異常症の診断時にすでに糖尿病や高血圧がある人、喫煙者、遺伝的に動脈硬化を起こしやすい病気の人(家族性高コレステロール血症)など動脈硬化のリスクが高い人はすぐに薬物療法が必要です。
個々の患者さんで目標値も違いますし、食事や運動療法など良く相談しながら進めていくことが大切です。症状が出ないうちから早めに予防、治療する事で動脈硬化を防ぎ、動脈硬化によって引き起こされる様々な病気を予防する事ができます。他の生活習慣病と同様、長く付き合っていかなくてはならない病気ですから、定期的な受診をしながら継続的に取り組んでいきましょう。

高尿酸血症・痛風

体内の尿酸値が高くなり、7.0mg/dlを超えると高尿酸血症という状態です。この状態が続くと、関節の中で尿酸が結晶化(固まる)します。これに対して白血球が反応し、関節などに炎症を引き起こしたりする病気が痛風です。放置すると、関節ばかりではなく腎臓などにも悪影響を及ぼしたりします。
高尿酸血症・痛風

原因

痛風は30歳以上の男性に多く、プリン体を多く含む食物の過剰摂取や体内のプリン体の過剰な産生、尿酸(プリン体が分解されると尿酸となります)の尿への排泄のバランスが崩れる事により、尿酸値が高くなる事で起こります。食生活や肥満などの生活習慣、遺伝、血圧を下げる薬などが原因となる事もあります。高尿酸血症の方は糖尿病や高血圧など他の生活習慣病を合併しているケースも多く見られますので、このような場合、心臓病や脳卒中などのリスクが高くなりますので、早めの治療が必要です。

症状

尿酸値が高くても、無症状の方も多いので、放置されているケースが多く見受けられます。この状態が長く続くと、足の親指の関節などに突然の関節炎が起きて、関節が腫れ、激痛が起きます。この状態が痛風発作と呼ばれます。痛みはしばらくすると軽快しますが、発作と軽快を繰り返していくうちに、関節の腫れなどの状態が悪化したり、体の至るところに結節(しこり)ができたり、さらには、腎臓の機能の低下や腎臓や尿管(尿の通り道)に結石ができる事で腰や背中に激痛を生じさせたりする事があります。

診断

すでに痛風の発作を起こしている方は足の指の関節をはじめ、身体診察を行います。また、血液検査で尿酸値が7.0mg/dl以上であれば高尿酸血症と診断されます。

治療

まずは食事を中心とした生活習慣の改善が大切です。プリン体を多く含む食品(ビール、酒、レバー・ホルモン・砂肝などの肉類、エビやカツオなどの魚など)を控える事や、逆に低脂肪ヨーグルトやコーヒー、ビタミンCを含む食品などは尿酸を下げると言われていますので、こういった食品を取るのも一つの手段です。尿酸を尿から排泄させるのを促進するために、水分を多くとったり、肥満傾向がある人は運動療法による減量も必要です。このように食生活やライフスタイルを変えてもなかなか尿酸値が下がらない方にや痛風発作を起こしたことがある方には尿酸の生成を抑える薬や、尿酸の排泄を促す薬を、それぞれの症状に合わせて処方します。尿酸値を6.0mg/dl以下(痛風結節がある方は5.0mg/dl以下)にコントロールする事を目標とします。
痛風発作を起こしていて炎症が強い状態の場合は、コルヒチンという痛風発作を和らげる薬や非ステロイド性消炎鎮痛薬(NSAID)の内服で炎症と痛みを和らげる治療をします。それでも症状が強い場合はステロイドを使用する事もあります。
このように、痛風は全身に悪影響を及ぼす病気ですので、健康診断などで尿酸値が高い事が指摘されたり、足の指の関節が腫れて痛んだりした場合はできるだけ早めに当院へご相談ください。